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【事例紹介】大林組が進める「地に足のついたDX」、Di-Liteでデジタル教育に力を入れる理由とは

大林組がデジタル教育に力を入れ始めている。アニメーション等を活用したデジタル教育のサイトを立ち上げ、社員のデジタルリテラシーの底上げに力を入れるほか、2022年にはDi-Liteを導入し、全社的なマインドセットの変革に挑んでいる。

今回、DX本部 本部長室の安井勝俊氏、倉形直樹氏に大林組のデジタル教育について話を伺った。

●プロフィール
株式会社大林組 DX本部 本部長室長 安井 勝俊(やすい かつとし)
株式会社大林組 DX本部 本部長室 デジタル教育課長 倉形 直樹(くらかた なおき)


※肩書は取材時のものです
※写真は(左)が安井勝俊氏、(右)が倉形直樹氏

デジタルは建設業が直面する課題を解決するための手段の一つ

大林組でデジタル教育の検討が本格的に始まったのは2020年に遡る。同社DX本部 本部長室 デジタル教育課長 倉形直樹氏は、建設業において解決しなければならない課題を3つ挙げ、

    ・長時間労働の削減
    ・建設業に携わる人材の確保
    ・脱属人化

これらを解決するための手段のひとつがデジタルなのだ、と強調する。

ーー倉形

「一言でデジタルと言っても、作る側だけがデジタルを理解していても課題は解決しません。デジタルを作る側と使う側の両方がデジタルの効能を理解し、知識やスキルを身に着けることが必要となります。そこで社員全体のデジタルリテラシーの底上げを図るべく、デジタル教育施策の検討を本格的に開始したのが2020年です。」

翌年の2021年2月、マインドセット変革を目的に大林グループのデジタル変革についてのeラーニングをグループ全体に実施。3月にはデジタル教育を目的とした社内サイト「ここから始める デジタルおおばやし」を公開し、デジタルに対するマインドセット変革を加速させた。

その後、5月からDXに特化した人材育成会社であるディジタルグロースアカデミアとデジタル人材育成のフレームワークの検討を開始し、10月には策定したフレームワークのもと、各種施策の実行に着手した。また、翌年2022年2月に大林グループのデジタル変革をけん引する組織としてDX本部を設置。

同社DX本部 本部長室長である安井勝俊氏は、DX本部の位置付けは既存のIT部門とは大きく異なると語る。

ーー安井

「DX本部設立以前から、DX推進のケイパビリティを有したIT部門はありました。しかし、事業部門が中心にいなければDXを本格的に推し進めるには至りません。そこでIT部門だけでなく建築、土木、ロボティクスなど事業部門の人材を集約した社長直轄のDX本部を設立し、“横串”でDXを推進できる体制を整えました。」

建設DXの鍵となる「BIM」教育 
生産情報と経営情報の融合で「情報の持ち方」を変える

2022年3月に発表された大林グループの中期経営計画2022では、経営基盤戦略のひとつとして「事業基盤の強化と変革の実践に向けたDX」が挙げられている。大林グループのデジタル戦略ではDXを大きく「生産DX」と「全社的DX」に分けており、前者では主に収益の根幹である生産部門のデジタル変革、後者ではデジタル人材育成を含めた全社的なデジタル変革による事業基盤の強化と変革の実践を狙う。

中でも最重要と位置づける生産DXで同社が注力するのがBIM(Building Information Modeling:モデリングソフトウェアを使用して建築物や土木構造物の設計、建設、維持管理の生産性を向上させること)教育だ。安井氏はBIMについてこう語る。

ーー安井

「BIMとは、わかりやすく言えば昔は紙で描いていた図面をソフトウェアを使用して3次元で描き、モデルに位置や材質、量といった情報を付加していくことです。以前からCAD(Computer Aided Design:コンピュータを用いて設計をすること、またはコンピュータによる設計支援ツール)を使った図面制作は行われていましたが、あくまで2次元で出力するので、どうしても図面と現場の差異が生じます。BIMによって3次元でモデルをチェックするなど、仮想空間の中で設計から竣工までのシミュレーションができれば、現場での手戻りも少なくでき、建設業にとって大きな生産性向上になるのです。」

さらに、BIMでの設計段階から、使用する建材の金額や量といった情報を取得できれば、仕入れの効率化やスリム化にも寄与でき、原価管理のプロセス変革にもなるという。このように、生産情報と経営情報を融合することが、大林グループの生産DXが目指す第一歩だと安井氏は話す。

ーー安井

「データを使った経営の意思決定ができるようにするためには、生産情報をヒト・モノ・カネといった経営情報に結びつけることが必要で、設計しながら原価管理までできるBIMの普及は不可欠です。まさに建設業における“情報の持ち方変革”とでも言うべき挑戦です。」

サプライチェーン全体を対象にデジタル変革を啓発

一方、建設業界にBIMを普及させるには課題も多いという。BIM普及施策の一つとして取り組んでいるのが、サプライチェーン全体を対象としたBIM教育だ。対象は出向・派遣社員を含む大林組の全従業員のみならず、大林組が関わるサプライチェーン全体を教育の対象としているという。

DX本部の倉形氏は、大林グループのデジタル教育の特徴についてこう説明する。

ーー倉形

「当社グループのデジタル教育は、世代や役割に鑑みたプログラムになっている点が特徴です。また、単に研修と言っても自らの業務に関係なければ興味を持ちにくいため、各人の業務に紐付いたオリジナルのプログラムを提供しています。」

プログラムにはマインドセット変革のためのオリジナルアニメーションがあり、テーマ毎に5分以下の短い動画が3~4つ用意されており、より深く学びたい層に向けたコンテンツもある。また、受講ログを取っており、改善に向けたPDCAを常に回しているという。

ーー倉形

「世代や役割ごとの受講率といったデータを取っているので、特定のキーワードが含まれれば受講者が増える、というような傾向も見えてきています。世代や役割ごとの興味のばらつきも見えてきたので、多様な層をうまく取り込めるような研修を考えていきたいと思っています。特に、BIM普及においては建設現場で働く層のデジタルへの関心を高めることが必要で、こうした研修でしっかりマインドセットの変革につなげたいと思います」

地に足のついたDXを 
3年で500人のITパスポート試験新規合格者を狙う

大林組は、2022年にDi-Liteを導入した。「デジタルリテラシーを全てのビジネスパーソンに」というフレーズに強く共感したという。倉形氏はこう語る。

ーー倉形

「先程申し上げたとおり、当社のデジタル教育は当社が関わるサプライチェーン全体を対象としており、Di-Liteが掲げている『デジタルリテラシーを全てのビジネスパーソンに』というフレーズに強く共感し、導入させていただきました。当社では以前からITパスポート試験やG検定の受験を推奨しており、大規模な講習会などの取り組みが行われていました。すでにDi-Liteを導入できる土壌はあったと思います。」

取り組みのKPIとして、2022年4月からの3年間で、Di-Liteで推奨するITパスポート試験の新規合格者500人という目標を掲げている。全従業員に受験を推奨しているが、まずはデータ活用度の高い企画管理部門を対象とし、当該部門のイノベーターとアーリーアダプターとなる16%が500人になるため、まずはこの数字の達成を目指すという。

ーー安井

「Di-Liteの各資格の受験対策研修を5月から開始していますが、新規合格者は増加傾向にあり、データ活用までのリードタイムの短縮や市民開発によるクイックウィンも散見されるなど効果は出始めています。今はアーリーアダプターまでが興味を持ってくれている状態なので、アーリーマジョリティも興味を持つ『周りが取り出している。乗り遅れたくない。』という状況を作るためにも、合格者の声を積極的に発信するなど広報をしっかりしていきたいと考えています。」

最後に安井氏は、「地に足のついたDX」を推進していきたいと強調する。

ーー安井

「建設業においては、元請けのデジタル化が進んでも、協力会社はまだまだ……ということが多く、そのような中でサプライチェーン全体を変革していくには、協力会社の経営層や次の世代などにもデジタルの必要性を地道に啓発していかなければなりません。当社では経営層がデジタル教育に大きくコミットしており、常にトップが情報発信しています。DXを画餅に終わらせないよう、地に足をつけて確実に成果を出していきたいと思います。」

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